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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)181号 判決

東京都中野区東中野二丁目二二番二六号

原告

成澤亀一郎

右訴訟代理人弁護士

二見敏夫

東京都中野区中野四丁目九番一五号

被告

中野税務署長 竹澤興一

右指定代理人

伊東顕

渡辺進

廣田隆男

須川光芳

井上良太

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成七年五月三一日付けでした原告の平成四年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例を受けるべく承認申請をしたものの代替資産を購入しなかった原告が、所定の期間経過後に修正申告書を提出したところ、被告から平成七年五月三一日付けで、原告の平成四年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)を受けたことから、国税通則法(以下「通則法」という。)六五条五項の適用があるとして、本件賦課決定の取消しを求めた事案である。

一  関係法令の定め

1  譲渡所得は、課税標準となる総所得金額に含まれるが(所得税法二二条一、二項)、土地等の譲渡については、租税特別措置法(平成五年法律第一〇号による改正前のもの。以下「法」という。)において課税の特例規定(法三一条、三二条)が設けられており、長期譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額から長期譲渡所得の特別控除額を控除した金額に対し一〇〇分の三〇の税率を適用して所得税を課するものとされている(法三一条一、二項)。

2  法三三条二項は、土地収用法等に基づく資産の収用又は収用対象土地等の買取り等(同条一項各号。以下「収用等」という。)が行われた場合に、当該資産を有していた個人が、その補償金、対価又は清算金(以下「補償金等」という。)の額の全部又は一部に相当する金額をもって、収用等のあった日の属する年の翌年一月一日から収用等のあった日以後二年を経過した日までの期間(以下「代替資産取得期間」という。)内に、代替資産を取得する見込みであり、かつ、納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、その者の選択により、補償金等の額が税務署長の承認を受けた当該代替資産の取得価額の見積額以下である場合には、当該譲渡資産の譲渡がなかったものとして、課税繰延べを認めている(以下「本件特例」という。)。

なお、当該収用等に係る事業が完了しないこと又は工場等の建設に要する期間が通常二年を超えること等、例外的に租税特別措置法施行令(以下「令」という。)二二条一一項に規定するやむを得ない事情があるため、代替資産取得期間内に代替資産を取得することが困難である場合には、収用等のあった日の属する年の翌年一月一日から同項が規定する日までの期間(以下「令二二条一一項期間」という。)内に、納税地の所轄税務署長の承認を受けて、本件特例と同様の課税繰延べを受けることができる(以下「令二二条特例」といい、代替資産取得期間及び令二二条一一項期間を、以下「本件特例期間」と総称し、本件特例及び令二二条特例が課税繰延べの要件とする納税地の所轄税務署長の承認を「買換え承認」という。)。

本件特例による買換え承認を受けようとする者は、その年分の確定申告書に本件特例の適用を受けようとする旨を記載し、租税特別措置法施行規則(以下「規則」という。)一四条七項に規定する書類を添付して提出するとともに(法三三条六項)、収用等の対象とされた資産について本件特例の適用を受けようとする旨、取得する予定の代替資産についての取得予定年月日及びその取得価額の見積額その他の明細を記載した申請書を、右確定申告書の提出日までに、納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(規則一四条四項)。なお、令二二条特例による買換え承認を受けようとする者は、申請書に、令二二条一一項各号に掲げる場合の区分に応じ、当該該当する事情及び代替資産を取得することができることとなると認められる日を付記しなければならない(規則一四条五項)。

3  そして、代替資産を本件特例期間内に取得しなかった場合は、本件特例期間を経過した日から四か月以内に当該収用等のあった日の属する年分の所得税についての修正申告書を提出し、かつ、右期限内に右申告書の提出により納付すべき税額を納付しなければならず(法三三条の五第一項二号。以下、右期限を「修正申告書提出期限」という。)、修正申告書提出期限内に修正申告書の提出がないときは、納税地の所轄税務署長は通則法二四条又は二六条の規定による更正を行うこととされている(法二三条の五第二項)。

法三三条の五第一項に規定する修正申告書が修正申告書提出期限内に提出された場合には、右修正申告書は、税額を増加させるものを除き、これを通則法一七条二項に規定する期限内申告書とみなされ(法三三条の五第三項一号)、法三三条の五第一項に規定する修正申告書が修正申告書提出期限後に提出された場合には、通則法六五条一項により過少申告加算税が賦課されることになるが(法三三条の五第三項二号、二条一項一〇号)、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、通則法六五条一項は適用されない(法三三条の五第五項)。

二  争いのない事実等

1  当事者

原告は、後記2(一)の売買契約締結当時、東京都中野区東中野二丁目八番一三号所在の宅地五六・九九平方メートル(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の延べ床面積一五二・五六平方メートルの建物(以下「本件建物」といい、本件土地と合わせて「本件資産」という。)を所有し、本件建物において、産婦人科医院を営む、いわゆる青色申告者であった。

2  本件賦課決定の経緯(甲第二号証、乙第一ないし第六号証)

本件賦課決定の経緯は、別表記載のとおりであり、その具体的詳細は次のとおりである。

(一) 原告は、首都高速道路公団(以下「公団」という。)から、道路拡幅のための本件土地買収の申し入れを受け、平成四年九月一一日、公団との間で、本件資産を代金合計二億四八四二万四七八〇円にて公団に売却する旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)並びに右売却に伴い原告が本件建物及び本件土地上の工作物等を収去すべき期限を平成五年三月三一日とし、右移転により生ずる損失につき、公団が原告に対して補償金を支払う旨の移転補償契約(甲第二号証。以下「本件補償契約」という。)を締結した。

(二) 原告は、平成五年三月一五日、原告の平成四年分の所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)に際し、総所得金額を事業所得に係る損失の金額五〇九万一四四六円と純損失の金額二一五万七四一九円の合計額である七二四万八八六五円の損失とし、分離長期譲渡所得金額及び納付すべき税額をいずれも〇円と記載した確定申告書(損失申告用)(乙第二号証、第五号証)に、本件売買契約締結の事実を記載した「譲渡内容についてのお尋ね」(乙第三号証)及び本件特例の適用を受ける旨の「買換え承認申請書」(乙第一号証。以下「本件申請書」という。)を添付して、被告に対し提出した(以下、原告の本件申請書の提出による買換え承認申請を「本件申請」という。)。なお、右確定申告書、「譲渡内容についてのお尋ね」は、原告が委任した税理士二見明(以下「二見税理士」という。)が作成している。

(三) 本件申請書は、一枚の用紙を切取線を挟んで上下に分け、上部を「買換え承認申請書」、下部を「買換え承認申請に対する承認書」として印刷された定型用紙のうちの「買換え承認申請書」部分に、必要事項を記入して、原告名義で作成したものであるが、そこには、本件資産の譲渡年月日が平成四年九月一一日、代替資産の取得予定年月日が平成四年九月一一日、代替資産の取得予定年月日が平成六年一二月三一日、取得価額の見積額が本件売買契約における代金額と同額の二億四八四二万四七八〇円と記載されていた。

なお、本件申請書用紙の下部の「買換え承認申請に対する承認書」の部分には、具体的な金額、日付を記載することを予定して、取得価額の見積額及び取得予定日を承認する旨の不動文字が印刷されているが、右「買換え承認申請に対する承認書」の部分は、記入がされないまま、本件申請書部分から切り離されずに、本件申請書と一体となった状態にある。

(四) 被告は、平成七年三月一日ころ、原告に対し、本件特例適用による代替資産取得予定日が経過したところ、代替資産の取得状況について尋ね、また、説明したいこともあるので、代替資産に係る取得価額が分かる書類、登記簿謄本及び事業の用に供した事実が分かる書類並びに印章を持参して、同月一〇日午後三時ころに、中野税務署に来署することを求める来署依頼状(乙第四号証。以下「本件来署依頼状」という。)を送付し、原告はこれを受領したが、原告は右期日に中野税務署に赴かなかった。

(五) 原告は、平成七年三月二四日、分離長期譲渡所得の金額を一億七一九七万一九四九円、納付すべき税額を二四五二万八九〇〇円と記載した平成四年分の原告の所得税の修正申告書(乙第五号証。以下「本件修正申告書」という。)を、被告に対して提出した。なお、本件修正申告書提出の時点において、原告は代替資産を取得していなかった。

(六) 被告は、平成七年五月三一日、本件修正申告書の記載に基づき、通則法一一八条三項、六五条一項、二項を適用して、原告が新たに納付すべきこととなった所得税額二四五二万円に対し一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した二四五万二〇〇〇円と、原告が新たに納付すべきこととなった所得税額のうち五〇万円を超える部分に相当する金額二四〇二万円に対し一〇〇分の五の割合を乗じて算出した一二〇万一〇〇〇円との合計額三六五万三〇〇〇円をもって、原告の納付すべき過少申告加算税の額とする本件賦課決定を行った。

3  本件賦課決定に対する不服申立ての経緯(甲第一号証)

本件賦課決定に対する原告の不服申立ての経緯は別表記載のとおりであり、原告は、平成八年八月二八日、本件訴えを提起した。

三  争点

本件の争点は、本件修正申告書の提出が、原告の平成四年分の所得税について、調査があったことにより、更正があるべきことを予知してなされたものであるか否かという点にあり、右争点に係る当事者双方の主張は次のとおりである。

(原告)

1 原告は、本件補償契約において、本件建物及び本件土地上の工作物等の収去期限が平成五年三月三一日とされたため、代替資産取得期間は右収去期限から二年以内と判断し、本件申請書に代替資産の取得予定年月日を平成六年一二月三一日と記載したところ、被告が本件申請書を受理した後、原告に対し特に不承認との通知をしていないことから、原告としては、代替資産の取得予定年月日を平成六年一二月三一日とする本件申請が被告により承認されたものと考え、同日までに代替資産が取得できないときは、同日より四か月以内に修正申告をすればよいと理解し、そのようにするつもりであった。

2 原告は、平成六年一二月三一日までに代替資産の取得をしなかったので、同日から四か月以内に修正申請をする予定であったところ、被告から本件来署依頼状が送付されてきたので、これを単なる修正申告のしょうようと理解し、出署しないまま、本件修正申告書を提出した。

3 以上のとおり、原告は、本件申請書の代替資産の取得予定年月日欄に平成六年一二月三一日と記載することにより、同日までに代替資産の取得ができないときは、同日から四か月以内に修正申告をする意思を被告に明示しており、本件来署依頼状の受領を契機として、予定どおり本件修正申告書を提出したにすぎず、本件来署依頼状の受領によってはじめて修正申告の決意が生じたというものではないのであるから、本件修正申告書の提出は、原告の平成四年分の所得税について、調査があったことにより、更正があるべきことを予知してなされたものではないときに該当するものというべきである。

(被告)

1 原告は、本件資産の譲渡に係る課税年分を、本件売買契約の効力発生日である平成四年九月一一日の属する年である平成四年と選択しており、法三三条二項、三三条の五第一項二号の規定の文言上、本件特例の適用による代替資産取得期間は平成六年九月一一日まで、修正申告書提出期限は平成七年一月一一日までとなり、それ以後の日と解する余地は存しないところ、本件修正申告書が提出されたのは同年三月二四日であるから、本件修正申告書は修正申告書提出期限後に提出されたものということになる。

2 本件申請書及びその他の本件確定申告の際の提出書類を作成した原告及びそれに関与したと考えられる二見税理士は、いずれの書類についても本件資産の譲渡日を平成四年九月一一日と認識して作成しているのであって、本件申請書の代替資産の取得予定年月日欄の平成六年一二月三一日という記載は、平成五年一月一日から平成六年九月一一日までのいずれかの日付を記載しなければならないことを確知しながら、誤記によって平成六年一二月三一日と記載したものと考えられるところ、代替資産の取得予定年月日欄にそのような誤記のある本件申請書の提出を受けた被告において、そのような誤記をあえて補正する必要はなく、また、被告が本件申請を承認するという意味は、本件確定申告において、代替資産の取得価額の見積額について譲渡がなかったものとして所得計算を行うことを許容する旨の意思表示をするということであり、本件申請書に記載されている法三三条二項の規定の文書に反する代替資産の取得予定年月日までも承認するという効果を伴うものではないのであるから、仮に、原告が本件申請書に記載された代替資産の取得予定年月日が被告により承認されたと認識したとしても、それは、単なる税法の不知あるいは誤解以外の何ものでもない。

3 本件来署依頼状は、本件特例を適用した原告による本件確定申告に対する調査の過程で、代替資産取得期間及び修正申告提出期限を経過しても原告から代替資産の取得に関する書類の提出がないことから、代替資産取得期間内に代替資産の取得がなかったことを確認し、その上で原告に修正申告をしょようとするために送付したものであり、その文面上も被告の右送付の趣旨を伝える内容となっており、本件来署依頼状を受領した原告としては、本件来署依頼状の趣旨に従い、出頭して修正申告書の提出等をしないなら、本件資産に係る譲渡所得について、被告が更正を含むしかるべき手続をとるであろうことは十分予知し得たものというべきであり、原告は、本件来署依頼状において被告が指定した期日を経過した後の平成七年三月二四日に至って本件修正申告書を提出したのであるから、本件修正申告書の提出は、被告の更正を含むしかるべき手続を予知してなされたものというべきである。

四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  本件申請及び被告の買換え承認の趣旨並びに原告の認識について

1  本件特例は、収用等により資産を譲渡し、その補償金等をもって、一定期間内に代替資産を取得する見込みであるとして、買換え承認を得た者が、当該譲渡があった年分の所得税の申告に当たり、代替資産の取得価額の見積額の限度において、譲渡がなかったものとして所得計算することにより、課税の繰延べをすることを可能とするものであり、買換え承認には、申請書に記載された代替資産の取得価額の見積額を前提として、そのような所得計算を行うことを許容する旨の税務署長の意思表示が含まれていることは明らかである。

代替資産取得期間内に代替資産を取得する見込みがあるとする場合の本件特例の買換え承認においては、収用等により資産を譲渡した日が決定すれば、本件特例の適用により、代替資産の取得予定年月日となり得る最終日が、収用等のあった日以後二年を経過した日として、客観的、一義的に定まるのに対して、代替資産取得期間内に代替資産を取得することができないやむを得ない事由があるとする令二二条特例の買換え承認においては、令二二条一一項期間について、その始期が税務署長の認定に係らしめられているものも含まれており(令二二条一一項)、そのような場合には、代替資産の取得予定年月日となり得る最終日が一義的に定まるものではない。

ところで、証拠(乙第一号証、第四号証)及び弁論の全趣旨によれば、課税実務においては、代替資産取得期間の適用を前提として本件特例の適用を求めて買換え承認申請がなされた場合には、買換え承認申請に対する承認書を交付することなく、当該買換え申請書の受理をもって承認と扱い、買換え承認申請に対する承認書を交付するのは、令二二条特例の買換え承認申請がなされた場合であると認められる。すなわち、令二二条特例の適用がある場合には、税務署長による買換え承認は、買換え承認申請に対する承認書をもってなされ、そこには、代替資産の取得予定日についての承認も含まれているものということができるが、本件特例の適用がある場合には、税務署長の買換え承認には、代替資産の取得予定年月日についての承認は含まれていないというべきである。

そして、代替資産取得期間の適用がある場合、代替資産の取得予定年月日が代替資産取得期間内になければならないこと及び収用等のあった日が特定されれば代替資産の取得予定年月日となり得る最終日が具体的、一義的に確定することは、本件特例を規定する法三三条二項の文言からも明らかであるから、税務に関する専門家である税理士(税理士法一条)としては、容易にそのことを把握できるものと考えられる。

2  これを本件についてみると、証拠(乙第一号証)によれば、本件申請書には、規則一四条五項により、令二二条特例による買換え承認の申請の場合に記載することとされている令二二条特例の場合に該当する事情の記載がなされていないことが認められ、右事実によれば、本件申請は本件特例による買換え申請としてなされたものであり、本件申請に対する被告の買換え承認は、買換え承認申請に対する承認書を交付することなく、本件申請書を受理することによりなされたものであるが、その趣旨は、原告が本件確定申告に際し、本件資産の譲渡がなかったものとして所得計算をすることを許容するものであって、本件申請書に記載された平成六年一二月三一日という、代替資産取得期間を超えた代替資産の取得予定年月日までも承認する趣旨は含まれないものというべきである。そして、原告において、本件資産の譲渡年月日を本件売買契約締結日である平成四年九月一一日として本件申請をした以上、代替資産の取得予定年月日が代替資産取得期間内、すなわち、平成六年九月一一日までの日でなければならないことは一義的に確定するのであるから、前記のとおり、本件確定申告に当たり本件申請書とともに提出された添付書類及び確定申告書を作成していることに照らし、本件申請書の作成にも関与したものと考えられる二見税理士及び原告としては、容易にそのことを把握し得たものと考えられるし、平成六年一二月三一日を代替資産の取得予定年月日とする買換え承認申請に対する承認書が交付されていない以上、原告及び二見税理士において、平成六年一二月三一日を代替資産の取得予定年月日とすることについて被告の承認がなされたと考える余地は存しないものというべきである。

3  この点につき、原告は、本件補償契約において、本件建物及び本件土地上の工作物等の収去期限が平成五年三月三一日とされたため、代替資産取得期間は右収去期限から二年以内と判断し、本件申請書に代替資産の取得予定年月日を平成六年一二月三一日と記載したところ、被告が本件申請書を受理した後、原告に対し特に不承認との通知をしていないことから、原告としては、代替資産の取得予定年月日を平成六年一二月三一日とする本件申請が被告により承認されたものと考えた旨主張する。しかし、仮に、原告あるいは二見税理士において、本件申請に対する買換え承認には本件申請書に記載した平成六年一二月三一日という代替資産の取得予定年月日についての被告の承認が含まれていると考えるのであれば、その前提として本件申請書あるいは本件申請書とともに本件確定申告の際の添付書類として被告に提出された「譲渡内容についてのお尋ね」に、平成五年三月三一日が本件資産の引渡日であるとの記載がなされているべきところ、証拠(乙第一号証、第三号証)によれば、いずれも二見税理士が作成に関与したと認められる本件申請書及び本件確定申告の際に本件申請書とともに被告に提出された「譲渡内容についてのお尋ね」には平成五年三月三一日が本件資産の引渡日であるとの記載はなされていないことが認められるのであって、右事実に照らせば、原告及び二見税理士は、本件申請に当たり、収用等のあった日を本件資産の引渡日ではなく本件売買契約締結日としていたことは明らかであり、原告あるいは原告の委任を受けた二見税理士としては、本件売買契約締結日を収用等のあった日とし、代替資産取得期間、修正申告書提出期限を認識していたものというべきである。原告の前記主張は採用できない。

二  本件修正申告書提出の経緯

1  本件の場合、代替資産取得期間が平成六年九月一一日までであるので、それまでに代替資産を取得できなかったときの修正申告書提出期限は平成七年一月一一日ということになる。したがって、被告による本件来署依頼状の送付及び原告による本件修正申告書の提出は、客観的に見ると、いずれも修正申告書提出期限後になされたものということになる。

2  この点につき、原告は、代替資産の取得予定年月日を平成六年一二月三一日とする本件申請が被告により承認されたものと考え、同日までに代替資産が取得できないときは、同日より四か月以内に修正申告をすればよいと理解していたところ、平成六年一二月三一日までに代替資産の取得をしなかったので、同日から四か月以内に修正申告をする予定であったところに被告から本件来署依頼状が送付されてきたので、これを単なる修正申告のしょうようと理解し、出署しないまま、本件修正申告書を提出したのであって、本件来署依頼状の受領を契機として、予定どおり本件修正申告書を提出したにすぎず、本件来署依頼状の受領によってはじめて修正申告の決意が生じたというものではないのであるから、本件修正申告書の提出は、原告の平成四年分の所得税について、調査があったことにより、更正があるべきことを予知してなされたものではないときに該当すると主張する。しかし、原告としては、本件売買契約締結日を収用等のあった日とし、代替資産取得期間、修正申告書提出期限を認識していたものというべきであることは前記一記載のとおりであるから、本件申請書に記載した代替資産の取得予定年月日を基準として修正申告書提出期限を認識し、右期限内に修正申告書を提出する予定であったとする原告の主張は、採用することはできないものというべきである。

そうだとすると、原告としては、本件来署依頼状を受領することにより、原告が本件申請書に記載した譲渡年月日を基準とすれば、既に、代替資産取得期間が経過し、更に、修正申告書提出期限も徒過してしまっていることを十分認識し得たものというべきであるから、被告の本件来署依頼状送付の趣旨が、法三三条の五第二項の規定による更正に向けての調査のための来所依頼であることもまた、十分認識し得たものというべきであり、本件来署依頼状が単なる修正申告のしょうようにすぎないと理解したとの原告の主張は採用できないものというべきである。

3  以上の点に照らせば、本件修正申告書の提出は、原告の平成四年分の所得税について、調査があったことにより、更正があるべきことを予知してなされたものではないとの原告の主張は採用できないものというべきである。

三  本件賦課決定の適法性

以上によれば、原告は、本件確定申告に当たり、本件特例の適用を求めて本件申請を行い、被告から買換え承認を得ながら、代替資産取得期間内に代替資産を取得せず、修正申告書提出期限までに修正申告書の提出をしなかったのであるから、前記第二、二2(六)記載の計算によってなされた本件賦課決定に違法は認められない。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

別表 本件賦課決定処分の経緯

〈省略〉

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